あなたに呪いを差し上げましょう
代わりに、ルークさまはどちらにお住まいなのですか、と尋ねた返事は有名な貴族街の大通りだった。


大貴族の別宅が居並ぶ、高級住宅街のひとつ。自然とはおよそかけはなれた白亜の街。


中心地に住む貴族はふたつに大別される。おそろしく貴いお方か、貴族ではあるものの中流で、自分より高い身分の貴人にお仕えしているか。


たぶんこのひとは、おそろしく身分が高いほう。名乗らないことに慣れすぎるほど。


きょろきょろ見回して、物珍しそうに目を細めるので聞いてみたら、間取りが違うのですって。


わたくしの屋敷は、周囲の家々からできるだけ目立たないよう、庶民と同じように東向きにつくってある。


民草は朝、太陽が昇らぬうちに目を覚ます。あくせく働くために、太陽が昇ったら絶対に起きられるように東向きにつくるのだという。


対して、ルークさまのお屋敷は南向きなのですって。


明るいうちはたっぷり光を取り込んで、日が暮れると薄暗くなるつくりをしているということは、あくせく働かない身分のひとの家——財をなした持ち主の家であると、明らかだった。


上品な仕草。

褒めるのに慣れた口調。落ち着いた発声。

慎重さを感じさせないのに、よく選ばれた華やかな話題。ときおりのぞく不思議な知識の偏り。

口元にはいた微笑みはずっと崩れていない。


怪しすぎる、と思った。このひとはだめだわ、と心が警鐘を鳴らしていた。


それでも、するりと入り込まれた警戒心の隅で、もっと話がしたいと思ってしまう。


「アンジーは、ヴェールがお好きなのですか」


家のなかでもかぶっているのを不審に感じたらしい。目が合わないものね、おかしいわよね。


ええ、と曖昧に返事をする。顔を隠したいだけで、ほんとうは好きもきらいもない。


そうですか、とあっさり頷いたルークさまは、いたずらっぽく笑った。
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