あなたに呪いを差し上げましょう
「そう隠されると、そのヴェールの下をのぞいてみたくなりますね」


ふと伸ばされた指先が布を持ち上げる前に、そっと押し戻す。


「つまらない顔がひとつあるだけですわ」

「つまらないかどうかはわかりませんよ。あなたは声もおきれいだ」

「星明かりの下で見るかんばせがなぜか麗しく見えるように、夜の深さに冷えた耳には、なぜか心地よく聞こえるのでございましょう」

「いただいた紅茶のおかげで、日向にいるようにすっかりあたたまっていますよ」

「お体を冷やされなかったのでしたら、こちらまでご案内した甲斐がありました」


話をずらしてばかりのわたくしに、アンジー、と困ったような呼びかけが繰り返される。

でも、顔を見せるわけにはいかない。特徴的な髪の色がわかったら、あとで名前を知られてしまうもの。


「……わたくしの顔など、ひとりきりの寂しさに長年首を垂れていた、ただの取るに足らない顔です。あなたさまにお見せできるようなものではありませんわ」

「これは手厳しい」


苦笑したものの、手元はこちらに伸ばされたまま。


「……ルークさま。わたくしに、見栄を張らせてくださいませ。醜い顔を見られたい者はおりません」


頑なな態度に察したらしい。静かな瞬き。


「なにか、傷でも?」

「ええ、そのようなものですわ」


これ幸いと勘違いにのっておく。


「……では、いつか、あなたが教えてくださる機会をお待ちすることにしましょう」


そんな機会は、いつまでも来ないように思われた。


返事をしかねて黙り込む。そろそろ宴が終わる時間だった。
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