あなたに呪いを差し上げましょう
それにしても、ほんとうにいらっしゃるなんて、夜目も記憶力も馬の制御も抜群でいらっしゃるのだわ。お仕事関連の話だそうだから触れないけれど。


「昨日、夜鳴鳥を教えていただいたでしょう。なんだか気になってしまって、明るいうちから空を眺めてばかりいたのです。そうしたら、羽が緑色をした、うつくしい鳥を見かけました」

「ああ、鳴き声が笛の音に似た鳥ですわね」

「そうです。ご存じでしたか」

「この時期になるとやって来る渡り鳥でしょう。この辺りでもよく見かけますから」


そうですか、と笑ったルークさまが、あなたは博識でいらっしゃる、と呟いた。


「そんな、博識だなんて。ただ書物で読んだことがあるだけです」


おや、と瞬きをされた。


読書がお好きなのですか、と続いた言葉に棘はなかったけれど、書物は高級品である。なかなか手に入らないもので、そもそも読み書きができない者も多い。


なぜこんな辺鄙なところに住んでいるひとが——と思われても仕方のないことだった。


「読書は好きです。それに、……わたくし、写本を生業のひとつにしていますの。ですから、著名なお話や流行りのお話は、見かける機会が多いのです」


そのなかのひとつに、たまたま鳥に詳しいものがあった。


自然が近いので、名前や特徴がわかった途端、あああの鳥だわ、と気づいてしまっただけのことである。


「私も読書が好きなのですが、なかなか手に取る機会がなくて。最近はどのようなものが多いのですか」


ご自分で生計を? だなんて言わない礼儀正しさに、一瞬言葉が詰まった。


仕草を見てもわかることだけれど、この方はほんとうに、よい教育を受けていらっしゃるのだわ。


明らかな間に不思議な顔をされてしまう前に、懸命に口を開く。
< 26 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop