あなたに呪いを差し上げましょう
はじめて恋の詩を読んだときのような心地だった。
熱に浮かされるような、思わず夢を見たくなるような。
たった一言が、眩しくて眩しくて、息苦しいほど胸を突いた。
ほう、と逃がした吐息が熱い。
そう。そうよ。わたくしは、赤が好き。趣味は読書。好きな本は物語。特技は写本と刺繍。
……たったそれだけのことを、きちんと考えたこともなかった。
そうやって手繰り寄せると、ひとつずつ明らかになっていく。
いま、だれに言葉をもらったか。昨夜だれを思い出し、だれのよい夜を願って、だれの夢を見たのか。
「アンジー、あなたの声はとてもやさしくて穏やかだ。陽だまりのような、あたたかな色が似合うと思います」
「……ありがとう存じます。わたくしも、ルークさまには青がよくお似合いだと思います」
答えた声は随分と湿っていたけれど、ルークさまはそれには触れずに、ありがとうございます、とにこやかに話を引き継いだ。
おすすめの本は。うつくしい草花の話。夜更けは寒くないか。
答えるたびに声がおかしくないかが気になった。ヴェールの下はずっと涙にぬれていた。
ああ、このうつくしいひとは、褒め方まで上手なのだわ。
褒めたあとはすぐに話題を振ってくれると、答えに困らない。
話題の選び方も丁寧で、こちらがあまり頭をひねらなくても答えられるように、すみずみまでよく考えられている。
この気遣いのうまさは、生来のものか、それとも。
あえかな会話の最後に、また明日を言ってはいけないひとだから、お待ちしておりますと言う。できるだけやさしい言葉を贈りたくて、よい夜を、と言う。
突然始まった奇妙な夜のしまいには、そういう終わりの挨拶しかできない。
「お邪魔しました」
「いえ。どうぞお気をつけてお帰りくださいませ。よい夜を」
「ええ。アンジー、あなたによい夜とやさしい夢を」
熱に浮かされるような、思わず夢を見たくなるような。
たった一言が、眩しくて眩しくて、息苦しいほど胸を突いた。
ほう、と逃がした吐息が熱い。
そう。そうよ。わたくしは、赤が好き。趣味は読書。好きな本は物語。特技は写本と刺繍。
……たったそれだけのことを、きちんと考えたこともなかった。
そうやって手繰り寄せると、ひとつずつ明らかになっていく。
いま、だれに言葉をもらったか。昨夜だれを思い出し、だれのよい夜を願って、だれの夢を見たのか。
「アンジー、あなたの声はとてもやさしくて穏やかだ。陽だまりのような、あたたかな色が似合うと思います」
「……ありがとう存じます。わたくしも、ルークさまには青がよくお似合いだと思います」
答えた声は随分と湿っていたけれど、ルークさまはそれには触れずに、ありがとうございます、とにこやかに話を引き継いだ。
おすすめの本は。うつくしい草花の話。夜更けは寒くないか。
答えるたびに声がおかしくないかが気になった。ヴェールの下はずっと涙にぬれていた。
ああ、このうつくしいひとは、褒め方まで上手なのだわ。
褒めたあとはすぐに話題を振ってくれると、答えに困らない。
話題の選び方も丁寧で、こちらがあまり頭をひねらなくても答えられるように、すみずみまでよく考えられている。
この気遣いのうまさは、生来のものか、それとも。
あえかな会話の最後に、また明日を言ってはいけないひとだから、お待ちしておりますと言う。できるだけやさしい言葉を贈りたくて、よい夜を、と言う。
突然始まった奇妙な夜のしまいには、そういう終わりの挨拶しかできない。
「お邪魔しました」
「いえ。どうぞお気をつけてお帰りくださいませ。よい夜を」
「ええ。アンジー、あなたによい夜とやさしい夢を」