あなたに呪いを差し上げましょう
翌日、月がくっきり夜空に浮かぶころ、約束どおり茶葉を差し出された。


黒い缶に入った茶葉は、たしか、王都の一番通りに大店を構える、たいへんな高級店のものではないかしら……。


お茶うけに裏で採れたベリーを洗いながら悶々と考えたけれど、きちんといただかなくてはもったいない。意を決してお茶を淹れた。


「今日いただいたお茶は柑橘の香りが強いものですけれど、ルークさまは柑橘類がお好きなのですか?」


それなら今度から、できるだけ柑橘を使ったお菓子を用意しておこうと思っての質問に、瞬きをして、ルークさまはさらりと言った。


「ええ。それに、アンジーは柑橘のものがお好きでしょう」


微笑まれて天を仰ぎたくなった。


つまりはわたくしの好みに合わせて買ってきてくださったらしい。だめだわ、全然参考にならなかったわ。


「どうしておわかりに……」

「一番はじめに出してくださったお茶が、柑橘のよい香りのものでした。あなたはおひとりで暮らしていらっしゃるのですから、お持ちのお茶は、お好きなお茶なのではないかと思いまして」


違いますか、と聞かれて、首を横に振ることしかできなかった。


「それはよかった」


にっこり微笑まれたけれど、全然よくはない。いただく手土産がどれも上等すぎて、申し訳なくて困る。


「あの、ルークさま。そんな、毎度手土産を持ってきていただかなくても構いませんのよ。どうぞお気遣いなく」

「いえ、お邪魔しているのはこちらなのですから」

「ですが、お返しできるものもございませんし……」

「お時間をいただいて、お部屋を貸していただいているでしょう。お返しなどいりませんよ」

「わたくしがお願いしたことですもの。お時間をいただいているのはむしろこちらですけれど……」

「アンジーはおやさしいのですね」

「いえ、おやさしいのはルークさまですけれど……?」


だめだわ。このお方、全然譲る気がないのね。まったくもって譲る気がないことしかわからないわ。


頭痛をこらえてベリーを器に山と盛った。多いほうを差し出すと、ありがとうございます、なんて手慣れた顔で受け取られた。
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