あなたに呪いを差し上げましょう
話題を探して窓の外を見るけれど、代わり映えのしない景色である。


「今日の月は随分と丸くて低いですわね。きれいだわ」


無理に紡いだ言葉に、とってきて差し上げましょうか、とルークさまはさらりと答えた。


「まあ、どうやってです?」


くすくす笑うと、いたずらな顔で笑い返された。


「それはもちろん、この窓から、梯子をかけてです」

「随分長い梯子になるでしょうね」

「ええ。国一番の職人を探さなくては」


低くて丸い月がのぼる晩、幼い子どもが父親にお月さまをとってとせがみ、父親が梯子と網で夜空をのぼって月をとってくる話は、子どもたちの寝物語に人気らしい。

よく依頼が来る。


この方は、寝物語に聞いて育った側なのかもしれないわ。


「すてきなお誘いですが、お願いするのはやめておきます。その梯子をつくる者がかわいそうですもの」

「あなたは無欲でいらっしゃる」

「あら、医師のお知り合いはいらっしゃいませんの? 残念ながら、わたくしには伝手がなくて……」

「腕のよい者がおりますよ。会いに行く必要はありませんが」


先回りして断られたけれど、絶対に診ていただいたほうがよいと思います。
< 32 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop