あなたに呪いを差し上げましょう
「わたくしが無欲にお見えになるだなんて、あなたさまのうつくしい空色が、今晩にも濁ってしまわないか心配ですわ」

「夜にはすべてが薄暗く見えるものです」

「では明朝にでも濁ってしまうのではありませんか。わたくしは確認することはかないませんけれど」

「確認してくださるのでしたら、朝日を一緒に眺めるのもやぶさかではありませんよ」


あなたとは星空しか見上げたことがありませんから、と言われたけれど、朝焼けはひとりで見るに限ります。


「ヴェールごしの目には、こまかな色の違いは判別がつきませんの。ご不安なのでしたら、お早くお帰りになったほうがよろしいかと思いますわ」


つらつら返事をしていると、アンジー、と呼ばれた。


「やはりあなたはおやさしいのですね。私を心配してくださるのですか」


唇が引きつらなかったことをだれか褒めてほしい。


こういうときはにっこり笑って返すに限る。よく写本依頼のある物語では、そう決まっている。


「ええ。それはもう」

「おや」

「話し相手がいなくなるのは、寂しいものですわ」


意外そうに丸められた目が、そうですね、とにっこり細められた。


「ご心配なく。せっかくいただいたお役目をすぐに手放すような無粋な真似は、いたしませんとも」


なんという適当加減。ありがとう存じます、と答えた声は、今度こそ引きつっていた。
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