あなたに呪いを差し上げましょう
ふと思いついたことがあって、水の日、様子を見にやって来た世話係に、おそるおそる話しかけた。


「ねえ、あなた、その髪は自分で結っているの?」


まんまるの目がこちらを見つめたまま戻らず、震えた手足ががたがたと音を立てていまにも崩れそうだった。


薄く開いた唇から、はく、はく、とかすれた吐息ばかりがもれている。


「驚かせてごめんなさいね。……こちらに、お客さまがいらっしゃるようになったのは、知っているかしら」


まだ薄い唇から音が出ない。ぶんぶん頷かれる。


ああ、やっぱり知られているのね。

そうよね、突然お菓子や本や食料をひとりでは消費しきれないほど頼むようになったのだもの、お客さまがいるのだろうとは察しがつくわよね。


「そう。……それなら話が早いわ。これは、わたくしのわがままなのだけれど。髪の結い方を、変えてみたいの」


わたくしは、いつもひとつに結ぶだけだから。


服は質素にしておきたいけれど、髪くらいは練習すればなんとかなるかもしれない。


ヴェールで隠れて見えないとはいえ、お客さまの前であまりにも簡素な結い方では、ちょっと心もとない。


気になるものは気になるのよ。時間を潰すのにもちょうどいいし。


「結い方の参考になるような本を買ってきてほしいの。できればいま流行りのものがいいけれど、不慣れでもひとりでできそうな結い方ならなんでもいいわ。二、三冊お願いできるかしら」

「わかり、ました。か、髪ひもと、ベールは、変え、変えなくても、よろしいのですか」

「あら、思いつかなかったわ、ありがとう。髪ひもとヴェールも替えがほしいわね。いくつか見繕ってもらえる? ヴェールはいつものものを、髪ひもは暗い色でも似合うようなものをお願いしたいわ」
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