あなたに呪いを差し上げましょう
「こちらを、あなたに」

「ありがとう存じます。不思議な色のお花ですのね」


髪を複雑に編み上げた夜、ルークさまに差し出されたのは白から赤に変わっていく不思議な色の花で、道端に白い花が咲いているのを見たことはあるけれど、赤い色のものを見るのははじめてだった。


「霜焼けを起こして花びらが下から赤くなっているそうです。私に花はわからないけれど、赤を見てあなたを思い出したものですから、思わず手折ってしまいました」

「まあ。霜焼けだなんて痛そうですけれど、きれいですわね。さっそく生けましょう」


手慣れた手土産だった。こちらを理由に手折られてしまうと、無下にする選択肢がない。


……にこにこ渡されると、なおさら。


「煮ているのはベリーですか? 甘い香りがしますね」

「野いちごを摘みましたの。いちごバターをつくろうと思いまして、砂糖で煮ているのですわ」

「いちごバター、ですか?」

「ええ。甘くて美味しいのです。以前つくったものでよろしければ、こちらにありますけれど、お召し上がりになりますか?」

「是非」


食事に向いた主張の激しくない紅茶を淹れ、薄く切って焼いたパンを少し大ぶりな一口ぶんにちぎり、いちごバターをたっぷりぬって差し出す。


ルークさまは熱でとろりと溶けたバターが薄桃色に変わるのを眺め、香りを確認し、その瑞々しい甘さに目を輝かせてから、そっと口に運んだ。


「いかがですか」

「……アンジー」


ため息混じりに呼ばれて焦る。


「お口に合いませんでしたか」

「いえ、とんでもない。これは……全王国民に食べてほしい美味しさですね……」


どういう視点なの。


そんな感想をおっしゃる方ははじめて見ました、と笑うと、ひどく真剣な目がこちらを見据えた。
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