あなたに呪いを差し上げましょう
引き絞られた弓のような無駄のない長身は、服の上からでもわかるほどよく鍛えられている。

夜の暗闇にあってもきらめかしく輝く金髪は、眩い太陽のよう。

瞳は深い海のようなうつくしい青で、いまは人懐こく細められている。


国一番の職人がたいへんな年月と予算を注ぎ込み、腕によりをかけてつくった精巧な人形のような、かけはなれたうつくしさだった。


ちらりと胸や肩を見遣ったけれど、どこにも紋章がない。


この宴は公爵家が開催しているため、そこそこの身分でなければ出席できない。


こうした場に伴うのであれば家柄に釣り合う護衛が選ばれるので、護衛の場合も同様にある程度の身分が求められる。

身分のある護衛なら、どちらの所属か示す紋章をつけているはず。使用人もそれとわかる定められた格好がある。


簡素ななかでも洗練された身なりは、飾り立てなくても華やかなこのひとによく似合っているけれど、身分不明な格好は明らかにおかしい。


お召し替えをされたのかしら。それとも、本来の身分を隠すために、わざとこのような格好をされているのかしら。

そういえば、遠目からでも仕立てのよさがうかがえる、かもしれない。あまり服に詳しくないのが歯がゆかった。


でも、わたくしもひとのことを言えないのよね。


あちらは紋章を外しているけれど、こちらはヴェールをかぶっている。

薄布ごしでは顔なんてよくわからないでしょう。ドレスは目立つ色でもないし、暗がりでははっきり色を見て取れないはず。


……どちらも相手がだれかわからないなんて、まるでこの場だけ仮面舞踏会の会場みたいだわ、とぼんやり思った。


ヴェールは髪の色を隠し、向けられる視線を遮るため。

目が合えば呪われるなどという噂を内心信じているらしい子爵に挨拶するときは、必ずかぶる。
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