あなたに呪いを差し上げましょう
張り切って煮沸消毒してくださったちいさな小瓶に、つくり置きのいちごバターをおすそわけする。
「できるだけお早めにお召し上がりくださいね」
「ご心配なく、明日にはなくなります」
「それはむしろ心配いたしますわ……」
ルークさまは小瓶を実に嬉しそうに眺めながら、手早くよい夜とやさしい夢を願い、踊るような足取りですぐさま帰って行った。
……なるほど。もし長居に困ったらいちごバターをお渡しすればいいのね、といい香りを恨めしく思ってしまったのは秘密である。
翌日、煮詰めた大量のいちごから、大量のいちごバターをつくった。せっせと瓶に詰め、かわいらしい一筆箋でも添えようかしらと思いかけて、なにを世迷いごとを、と思いとどまった。
危なかったわ。きっと甘い香りにあてられたのね。
野いちごは年中なっている。いちごバターをその日からたっぷりつくっているけれど、安上がりな帰りの合図としては、なかなか渡す機会がない。
ルークさまはいつも、夜がとっぷり更けると、「お邪魔しました」とさらりと立ち上がってしまう。
邪魔なんて一度もされていないものだから、それを聞くと、少しだけもやもやした気持ちになる。
だから代わりに小瓶を押しつける。そうすれば、律儀なこのひとは、瓶を返しにまた来てくれるに違いないから。
「お早めにお召し上がりくださいね。よい夜を」
「ありがとうございます。よい夜とやさしい夢を」
小瓶を渡すずるいわたくしに、お礼なんていらない。
瓶の大きさの理由に、気づかれているかはわからない。いちごバターのお礼にと手土産をもらい、そのお礼にいちごバターを渡し、そのお礼に手土産をもらう。
ルークさまとの話は、こちらが話題を振ることも、あちらが話題を持ってきてくれることもあった。
ただ、話し相手の名のとおり、律儀にいつもなにかしらの話題を用意してくれているのか、ルークさまが口を開くことが多い。
「できるだけお早めにお召し上がりくださいね」
「ご心配なく、明日にはなくなります」
「それはむしろ心配いたしますわ……」
ルークさまは小瓶を実に嬉しそうに眺めながら、手早くよい夜とやさしい夢を願い、踊るような足取りですぐさま帰って行った。
……なるほど。もし長居に困ったらいちごバターをお渡しすればいいのね、といい香りを恨めしく思ってしまったのは秘密である。
翌日、煮詰めた大量のいちごから、大量のいちごバターをつくった。せっせと瓶に詰め、かわいらしい一筆箋でも添えようかしらと思いかけて、なにを世迷いごとを、と思いとどまった。
危なかったわ。きっと甘い香りにあてられたのね。
野いちごは年中なっている。いちごバターをその日からたっぷりつくっているけれど、安上がりな帰りの合図としては、なかなか渡す機会がない。
ルークさまはいつも、夜がとっぷり更けると、「お邪魔しました」とさらりと立ち上がってしまう。
邪魔なんて一度もされていないものだから、それを聞くと、少しだけもやもやした気持ちになる。
だから代わりに小瓶を押しつける。そうすれば、律儀なこのひとは、瓶を返しにまた来てくれるに違いないから。
「お早めにお召し上がりくださいね。よい夜を」
「ありがとうございます。よい夜とやさしい夢を」
小瓶を渡すずるいわたくしに、お礼なんていらない。
瓶の大きさの理由に、気づかれているかはわからない。いちごバターのお礼にと手土産をもらい、そのお礼にいちごバターを渡し、そのお礼に手土産をもらう。
ルークさまとの話は、こちらが話題を振ることも、あちらが話題を持ってきてくれることもあった。
ただ、話し相手の名のとおり、律儀にいつもなにかしらの話題を用意してくれているのか、ルークさまが口を開くことが多い。