あなたに呪いを差し上げましょう
果物のサラダ。七日ごとにつくる豆のポタージュ。王都ではパンジーのティアラが流行っていること。


「ティアラはいりませんし、パンジーもいりません」


「花はおきらいですか」

「いいえ、好きです。ですがその、パンジーは持ちがよいものですから」


寒い季節を越す花として有名である。あまり長く手元に残ると、もしなにかあったときに処分しづらい。


「わかりました、あまりお邪魔にならないものを探してみます」

「いえ絶対にわかっていらっしゃいません、なにもいりません」

「いちごバターをいただいていますから」

「話し相手になっていただいておりますので」

「私があなたにお会いしたくてお邪魔するのです」


そう言われると弱い。


何度目かわからない堂々巡りの問答は、いつも、ルークさまの「お会いしたくて」にうまく返せずに終わる。


えもいわれぬ多幸感と苦しさに、どうしようもなく喉が詰まってしまう。

「お会いしたくて」をはじめに言われると、問答にならない。

それをわかっているルークさまが、さらりと言ってこちらの言葉を穏やかにとめることも増えてきた。


話し相手を願ったのはわたくし。勝手にすくわれたのもわたくし。

いちごバターを差し上げたいのもわたくし。小瓶を渡し続けているのもわたくし。


また会える口実を探しながら「わたくしもお会いしたくて」とは言わないこちらのずるさに、ルークさまはなにも触れない。


よい夜とやさしい夢を祈ってくれる、甘くてずるいお方。


次はいつ来るか、約束をすることはできない。また明日と乞うわけにはいかない。

夜と同じ色をしたわたくしに、これ以上を願う資格などない。


手繰り寄せるように夜を重ねた。どこまでも分別のある夜だった。
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