あなたに呪いを差し上げましょう
「ルークさま、大陸を旅行しながら書いている詩人の方の詩集はもうお読みになりましたか」

「国ごとの特色がよくわかって面白いですよね。詩集というより風土記や旅行記のようで」

「ルークさまは外国を旅行なさったことはありますか?」

「ええ。いくつか」

「まあ。是非教えていただきたいわ。国によって言葉が違うのでしょう?」

「夜の調べのようにやさしく流れる言葉の国もありますし、濁音がない言葉の国もありますし、性別や年齢で言葉を使いわける国もありました」

「濁音がないのですか?」

「古くからの言い伝えで、おそろしい音を神々がお咎めなさったのだそうです。私のような者からすると、とてもかわいらしく聞こえます」

「かなうなら、その言い伝えを読んでみたいですわ。性別や年齢で使いわけるというのは、語尾が違うということですか?」

「いいえ、使う単語自体が違うのです。ですから、成人することに憧れが強い若者が多いのだとか——」



「アンジー、よく熟れた赤い実を見つけました。一緒に召し上がりませんか」

「……ルークさま、それはどちらにありました?」

「赤い実の木が並ぶ街道に」

「葉がよく落ちている街道ですか?」

「ええ」

「でしたらそのままいただくのはやめておきましょう。ジャムか甘煮にしたほうがよろしいですわ」

「なぜです?」

「あの街道には、よく青い鳥が飛んでおりますの。ご存じですか」

「ええ」

「あの鳥の好物がその実なのです。それはすっぱくて鳥も食べられずに売れ残った実ですわ。色はよいですけれど、味はあまりよくないでしょうね」

「……ありがとうございますアンジー、やめておきましょう」

「せっかくとってきてくださったんですもの、裏に植えましょうか。こちらでは甘い実がなるかもしれませんわ」

「そうしたら私にも味見させてくださいね」

「いやですわ、実がなるのは早くても来年ですよ」

「ええ。来年ご一緒できるのを、楽しみにしています」
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