あなたに呪いを差し上げましょう
「観劇に行きませんか」


ぽつりと落とされた呟きは、思いつきではない、考え抜かれた声音をしていた。


「まあ」

「貴族は身分がわからないように目深に帽子をかぶりますし、街には顔に傷があるなどとして隠す者もおります。あなたがヴェールや帽子をかぶっていても案外目立たないのではないかと思うのですが、いかがでしょうか」


言い募られて、こちらも眉を下げる。


「いかがでしょうか、と言われても……」

「アンジー、私があなたと出かけたいのです。ここはよいところです。ですが、あなたと出かけることはできません」

「そうですわねえ」

「無理にとは言いません。あなたがおいやでなければ」

「いやではありませんが、無謀だとは思いますわ」

「残念です。それでは、またの機会に」

「ええ、機会がありましたら」


お互いに謝らなかった。


謝るのはなにかを傷つけたり間違ったりしたときだもの。わたくしもルークさまも、謝らなければいけないようなことは言わなかったわ。


「そういえば、占いが若い女性の間で流行っているそうです」


代わりに、瞬きをして、ルークさまが素早く話題を寄越した。


「占いはいつの時代も流行っておりますわ」

「いまは特にですよ。よく当たると評判なのだそうです。このカードを使うのですが、なにについて占ってほしいですか?」


胸元から取り出した色とりどりのカードには、淡くうつくしい絵が描かれている。


そうですねえ、と視線を外して、ゆっくり言葉を選んだ。


「最近、よくお客さまがいらっしゃるのですけれど」

「ええ」


ちらりとこちらを見遣る気配がする。
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