あなたに呪いを差し上げましょう
夜の闇に隠れてやってくるうつくしいひとに、聞いてみたことがある。


「どうして、いつも真夜中なのですか」

「夜空が好きだからです」

「わたくしは朝焼けが好きです」


ルークさまは、アンジーは早起きなのですね、と相槌を打ちながら、カップを傾けた。あまり遅い時間はご負担ですか、と聞かれて首を振る。


「いいえ、そのようなことはありませんけれど」


……ご負担なのは、あなたさまこそでしょう。


「先ほどからあくびをなさってばかりではありませんか。お忙しいのでしたら、無理にいらっしゃらずに、早くおやすみになったほうがよろしいのでは……」

「すみません、一応隠していたつもりだったんですが。そんなにわかりやすいですか」

「ええ。話の最中にそれほど唇を結ばれれば、どなたでもおわかりになると思いますわ」

「それは失礼を」

「いいえ。ですが、こんなところで油を売っている場合ではありませんわ。ご自宅でゆっくりおやすみくださいませ」


寝台はひとつしかない。

さすがに貸すわけにはいかないし、そもそも一緒に夜を明かすわけにもいかないし、こんなところでは、やすめるものもやすめないし。


アンジー、と眠気をにじませた声が、かすれて少しだけ舌足らずに名前を呼んだ。


ひと呼吸置いて、言葉を慎重に選ぶ気配がする。


「どうしていつも真夜中なのかとおっしゃいましたね」

「ええ」

「……眠れないのです」


きつく唇を噛んだ。


仕事が忙しくて、と言われるかと思ったのに。ごまかされると思ったのに。


ご自分は眠れないから、いつもわたくしに、よい夜とやさしい夢を祈ってくださるのですか。
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