あなたに呪いを差し上げましょう
「眠れなくて、夜更けにひとりでじっと耐えていると……あなたにお会いしたくなる」


なにを耐えているのかは聞かなかった。


代わりに、もっと早い時間でもいいと言ったけれど、今度こそ曖昧にはぐらかされた。


もっと知りたいと思う。もっと踏み込みたいと思う。


でも、話し相手を望んだこちらから踏み込んでいいものかわからない。それで関係が壊れるのは、ひとりに慣れたわたくしには、あまりにつらいのだもの。


「寝台をすみずみまでお探しになることをお勧めいたしますわ。きっと、布の隙間に、どなたかえんどう豆を置いたのです」


この方なら通じるでしょうと思っての冗談に、思ったとおり、ふふ、と噴き出された。このひとは笑い方まで上品だった。


「それはたいへんだ。帰ったら探してみます」

「ええ、是非。見つかったら、やわらかく煮て召し上がってしまえばよろしいのですわ。ポタージュにでもなさいますか」


庭先に埋めて、空高くツルが伸びるのを待ってもいいですね、とルークさまが紅茶を傾けた。


「そうしたら、雲を渡ってあなたに会いに来られます」

「あら、では道がわからなくならないように、パンを差し上げましょうか。いまでしたら特別に、いちごバターもたっぷりおつけしますわ」

「空の上ですよ。よけいに鳥に食べられてしまいます」

「鳥もおなかがすいているのかもしれませんわ。灰色の小鳥がいたら、どうぞ譲って差し上げてくださいませ」

「ええ、それはもちろん。ですが迷子になるのはお恥ずかしい。やはり道の端に小石を落としたほうがよいでしょうか」

「そうしてたどり着くのはわたくしの屋敷ではないかもしれませんわ。小石を入れる大きなポケットも必要ではありませんか?」

「それならトランクを持ちましょう。なかにいっぱいに詰めるのです」

「そのトランク、小石を詰めようと開けた途端に、ふわりと空を飛ぶかもしれませんわ」

「そうですね、なんとも夢のある話です。飛んだらおもしろいのですけれど」

「もし飛んだら、なかに火を入れてしまわないようにご注意くださいませ」

「ご忠告痛み入ります」


たわいのない話をして、お互いに笑い合い、瞬きを重ねたあと、窓の外を見て、ひとつ思いついた。


「ルークさま。夜更けに目が冴えるのでしたら、星の名を覚えてはいかがですか」
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