あなたに呪いを差し上げましょう
「星の名、ですか。眠くなるまで星を数えるのではなく?」

「ええ。星は毎夜輝きます。晴れてさえいれば、どこでも。ただじっと数えるより、うつくしいものの名前を唱えていたほうが、まだしも穏やかに眠れましょう」


見上げたわたくしに、うつくしいものの化身のような瞳が、大きく見開いた。

それはいいな、と無声音で唇が動く。


では。


「あなたが教えてくださいますか」


うまく答えられずに息を呑んだ。


星は毎夜輝く。


毎夜ということは、何年先も、ということだ。

もしわたくしがいなくなっても、ルークさまがこちらにいらっしゃらなくなっても、変わらず。わたくしの思い出とともに。


「すてきなご提案をありがとうございます。ですが私は、せっかく覚えるのなら、あなたに教えていただきたいのです」


いつも、太陽ではなく、月とともにやって来るひと。月を見上げると思い出すひと。

それなら、この方との思い出に星の名が増えても、思い出すことに変わりはないのだわ。


「わたくしも、星は詳しくありませんの。ふたりで覚えるというのはいかがでしょう」

「是非」


辺り一面に金の粉をこぼしたような星空の下で、同じく金の粉を振りまいたようなうつくしいひとが、穏やかに微笑む。


笑った顔が、その髪色と相まって、ほんものの月みたいにきれいだった。


「アンジー? どうかしましたか」


固まったわたくしに、いぶかしげな視線が向けられる。


「いえ、その。……ルークさまの御髪(おぐし)が、月のようだと、思って」


視線が落ち着かない。


お、思わず子どものようなことを言ってしまったわ……。


恥ずかしくなって消えた言葉じりに、沈黙が落ちた。


「……ありがとう、ございます。とても、嬉しいです」


あいた間にそろりと顔を上げると、月明かりに照らされた耳が、ひと刷毛赤かった。


「いいえ」

「星に詳しい本は、私が探してみます。見つかったらお持ちします」

「ありがとう存じます。楽しみにしております」


帰り際、よい夜とやさしい夢を願ったわたくしに、ルークさまがくしゃりと笑った。


「ありがとうございます。おかげさまで、夜明けまで少し楽しみになりました。あなたもよい夜とやさしい夢を、アンジー」
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