あなたに呪いを差し上げましょう
しばらくしてルークさまが持ってきてくださった星の名がたくさん載った本は、神話にもとづいて星座を紹介していて、物語を読むのが好きなわたくしにぴったりのものだった。


ふたりで使うのだからと折半を持ちかけたら、さらりと半額を教えてくれたので、すぐにお渡しして本に集中することができた。


ルークさまはこういうところが聡い。お代は結構です、などと変なことを言って線引きを間違えない。


うつくしい星の名をひとつずつなぞり、一緒に星空を探す。その場所を記しておいて、次の晩、一緒に確認する。


本はわたくしの屋敷に置いておくことになった。場所は余っている。


「ルークさま、ご覧になって」


手繰り寄せた本を見やすい向きに直してルークさまに見せながら、空と本を交互に指し示した。


「この星は西の空に、この星はもう少し北に、この星は動かずあちらにありますわ」

「相変わらず見つけるのが早いですね」

「何度も探していたら慣れてきました。この頁は簡単な形のものが多いですし」


そうですね、と頷いたルークさまの指が、星の形に空気をなぞる。


「形もそうですが、名前を覚えるのがひと苦労なんですよね……」


貴族名鑑が好きだと豪語するルークさまは、人名を覚えるのは驚くほど早いのだけれど、ものの名前や生きものの名前を覚えるのはどちらかといえば苦手なようで、星の名を覚えるのにも手間取っている。


「あら、ご心配なさらないでくださいませ。今日の星は少し長い名前ですけれど、ほら、明日からしばらくは、由緒正しいお名前からとったものばかりで覚えやすそうですもの」

「そうなんですか?」


のぞき込んだルークさまがさっと目で文字を追い、瞬きをして、少し笑った。文字を読み慣れたひとに特有の速さだった。


「知り合いの名前ばかりです。これならすぐにも覚えられそうだ」

「人名はわかりやすいですものね」


ええと、さらっと流して聞かなかったことにしましょう、そうしましょう。ルークさまは聡いのだけれど、ときおりものすごく抜けているのよね……。
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