あなたに呪いを差し上げましょう
そんなふうにして星の名を覚え、いちごバターを煮て、カードやチェスをした。


はじめは固辞していたのだけれど、本を贈られると受け取らずにはいられない本好きの性を逆手にとられ、本棚が少しずつ埋まってきている。


今日も今日とて星の名前が覚えられないルークさまに付き合って、一緒に本を読むことにした。


ルークさまからいただいたものを置いている本棚の左端から一冊手にとると、こちらを見つめる気配がする。


「わたくしに、なにか」

「いいえ。あなたが、私が贈った本を読んでいるのを見るのが好きなのです」


特殊な好みをお持ちですのね、とは言えなかった。代わりに、星の名は覚えられましたか、とかわいくない返答をした。


くすりと笑ったルークさまの手元で、琥珀色が揺れる。


せっかく夜なのだから、と手土産にお酒を持ってきたルークさまは、わたくしがちびりちびりとしかご一緒しないので、ひとりで瓶をあけかけていた。


「アンジー、お酒は苦手ですか」


「いえ、めったにいただいたことがないものですから、苦手かどうかもあまりわからなくて」


「飲みやすいものを差し上げましょうか。よろしければ今度お持ちしますが」


これは社交に疎いわたくしでもわかる。ほとんどない社交の知識が役立つほど、正攻法で来られるとは思わなかった。


「ありがとう存じます。あなたさまとの夜が変わらないのでしたら、お願いしたく思います」


「お好きではないのでしたら、ご遠慮なくおっしゃってください」


「いろいろと疎いわたくしでも、知っていることはありますのよ」



にっこり笑ったルークさまににっこり笑って、こちらのせいにする方はきらいです、と言外に言うと、眉じりが下がった。


「この距離を変えるのはおいやですか」

「わたくしは、話し相手ですもの」


いやもなにもない。話し相手には、お酒も近しい距離も必要がないというだけのこと。
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