あなたに呪いを差し上げましょう
きい、と耳慣れた押し方で門扉が開く。


遠目に見た世話係の娘の歩き方は変わらなかったけれど、近づくにつれて、その顔に大きな傷があるのが見えた。

できたばかりの真新しい、赤黒い傷口が、痛ましく風にさらされている。


「まあ、あなた、どうしたの……!」


思わずかんぬきを外して駆け寄る。


近づいても、娘は肩を跳ねさせなかった。困ったようにこちらを見つめる瞳に怯えがないことにほっとして、これでも五年経ったのだものね、とのんきなことを考えた。


「いやでなければ屋敷のなかにお入りなさい、手当てをしたほうがいいわ」

「いえ、お手間をおかけするわけには……」

「手間ではないから、いやでもなかにお入りなさい。ただでさえ忌子のわたくしを、そのような傷を放ったまま帰す愚か者にしないでちょうだい」


言いくるめて屋敷のなかに入れ、しっかりかんぬきをかけた。


顔をけがしたせいか、傷口は大きさのわりに浅いようだけれど、襟が染まるほど出血がひどい。


「わたくしの服で悪いけれど」

「いえ」


大きさはなんとかなりそうね。


清潔な布とお湯を用意して、娘を一番奥の隅に連れて行って、椅子に座らせる。


体を拭いて、傷口に清潔な布を当て、着替えをするくらいはひとりでできそうでよかった。わたくしに手伝われるほうがいやでしょう。


「わたくしは本でも読んでいるわ。終わったら声をかけて」

「は、はい」


お茶とお菓子の用意をしたあと、本を持って窓の外を向いておく。短い話をふたつほど読み終わったところで、「終わりました」とちいさく声をかけられた。


所在なく立ち尽くす娘の手を引いて椅子に座らせ、いつもはルークさまが使う来客用のカップにたっぷり紅茶をそそぎ、蜂蜜と砂糖を添える。

用意しておいたお菓子もテーブルに並べて、娘の向かい側に座った。


「食欲があるならお食べなさい」

「なにからなにまで申し訳ございません……」

「普段はわたくしのほうがなにからなにまでやってもらっているのだから、気にしないでちょうだい。けがなんて珍しいわね。どうしたの?」

「……転びました」


あら、まあ。この子ったら、嘘が下手だったのね。
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