あなたに呪いを差し上げましょう
「ねえ、気を悪くしないでちょうだいね。あなたは泥だらけだったし、それは転んだ傷には見えないわ」
はい、とかぼそい声が落ちる。
「だれかになにか言われたの?」
「……はい」
娘はお茶にもお菓子にも手をつけずに、きつく唇を噛んでいる。
「お茶が冷めてしまうわよ。紅茶はおきらいかしら」と言うと、「いえ」とこわごわ口をつけた。
美味しい、と無声音で動いた唇に二杯目をつぎ足してやり、わたくしも紅茶を傾ける。
「なんて言われたか、わたくしに教えてくれる?」
「も、申し訳ございません」
「あなたが言わないのは、内容がわたくしに関することだからかしら」
娘は押し黙ったまま、頑なに答えなかった。つまりは肯定である。
「やさしいのね、ありがとう。わたくしのせいでいやな思いをさせてしまってごめんなさい」
「いえ……!」
いつかはこうなるのではないかと思っていた。忌子のそばにいれば狙われるのはわかりきっている。
「ごめんなさいね、ほんとうにごめんなさい。……あなたさえよければ暇を出すわ」
「い、いいえ」
「ほんとうによいの? 少し待ってもらえれば次の仕事を紹介できると思うわ。仕事が見つかってから暇を出すのでも構わないけれど、無理にわたくしのそばにいることはないのよ」
激しく首を振られた。方向は横。ぼろ、と音がしそうな涙が、きつく結んだ唇のそばをふた筋流れていく。
「ありがとう。あなたのいままでの献身と勇敢さに感謝を。あなたとまだ会えるのは嬉しいけれど、しばらくこちらに来るのはおやめなさい。わたくしから父に手紙を書きます。最低限の食料は幸い近くにあるわ。たくわえもあります。あなたはほとぼりが冷めるまで本邸にいらっしゃい。そちらで仕事をもらえるように父に頼みます」
「いえ、ですがそれでは」
「遠慮しなくていいのよ。これはわたくしのわがままなの。わたくしのせいでだれかが傷つくところを、見たくないのよ」
おまえのせいだと言われるのは、もう、充分だった。
はい、とかぼそい声が落ちる。
「だれかになにか言われたの?」
「……はい」
娘はお茶にもお菓子にも手をつけずに、きつく唇を噛んでいる。
「お茶が冷めてしまうわよ。紅茶はおきらいかしら」と言うと、「いえ」とこわごわ口をつけた。
美味しい、と無声音で動いた唇に二杯目をつぎ足してやり、わたくしも紅茶を傾ける。
「なんて言われたか、わたくしに教えてくれる?」
「も、申し訳ございません」
「あなたが言わないのは、内容がわたくしに関することだからかしら」
娘は押し黙ったまま、頑なに答えなかった。つまりは肯定である。
「やさしいのね、ありがとう。わたくしのせいでいやな思いをさせてしまってごめんなさい」
「いえ……!」
いつかはこうなるのではないかと思っていた。忌子のそばにいれば狙われるのはわかりきっている。
「ごめんなさいね、ほんとうにごめんなさい。……あなたさえよければ暇を出すわ」
「い、いいえ」
「ほんとうによいの? 少し待ってもらえれば次の仕事を紹介できると思うわ。仕事が見つかってから暇を出すのでも構わないけれど、無理にわたくしのそばにいることはないのよ」
激しく首を振られた。方向は横。ぼろ、と音がしそうな涙が、きつく結んだ唇のそばをふた筋流れていく。
「ありがとう。あなたのいままでの献身と勇敢さに感謝を。あなたとまだ会えるのは嬉しいけれど、しばらくこちらに来るのはおやめなさい。わたくしから父に手紙を書きます。最低限の食料は幸い近くにあるわ。たくわえもあります。あなたはほとぼりが冷めるまで本邸にいらっしゃい。そちらで仕事をもらえるように父に頼みます」
「いえ、ですがそれでは」
「遠慮しなくていいのよ。これはわたくしのわがままなの。わたくしのせいでだれかが傷つくところを、見たくないのよ」
おまえのせいだと言われるのは、もう、充分だった。