あなたに呪いを差し上げましょう
とっさに予防線を張りながら、ちいさく聞く。


わたくしを見てすぐに身をひるがえさないということは、ある程度身分がある、遊学中の方なのかしら。

もしこの国の方ならば、身分にかかわらず、わたくしが何者か、どなたでもご存じだもの。


特に上流階級の方の間では、こういう宴の際はたいてい庭園に逃げ込むことも有名で、わたくしが参加しているときは、貴族令息は庭園にいる令嬢に絶対に自分から声をかけないそうよ。


間違っても、あの(・・)公爵令嬢と関係を持ってはいけないから。


わたくしにはもう随分前から、まことしやかに囁かれてきた噂がある。


魔女。忌子。肉親にまで見放された、麗しくもおそろしい、呪われ令嬢。


わたくしが呪われ令嬢だと知ったら、だれしもすぐさま背を向けた。世話を言いつけられている者たちまで。


この国ではみな、明るい髪色と瞳を持って生まれてくる。


闇の色たる黒は、悪魔や邪神に魅入られた証であるとされ、忌みきらわれてきた。


そういう神話があるのだから、黒髪の子どもが忌子と言われるのは必然だった。

なかには邪神の影響や降臨を恐れ、産声をあげたばかりの幼子を、その場で儚くしてしまう家もあるほどだ。


わたくしは母が懇願したために、生きることを許されたそうだけれど、その母も、最後までわたくしを生かしたことを後悔し続けていたという。


わたくしは黒髪に赤い瞳をしている。


黒髪は父の色でも母の色でもないけれど、瞳の赤は母譲りの色。

待望の子どもということで、母のおなかから、赤い瞳と不吉な黒い髪をした赤子を産婆が取り上げたところを、諸手をあげて喜ぶはずだった多くの召使いたちが見ている。


母にとっては不幸なことに、わたくしが母の子どもであることはたしかだった。
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