あなたに呪いを差し上げましょう
それを、依頼ですって? お代はお支払いします、ですって?


「……いつですか」

「え」

「ご出立はいつですか」

「七日後の、夕方に……」

「刺繍をするハンカチはこちらでよろしいのですね?」

「は、はい」


上ずった返事を気にする余裕はない。お帰りください、と唸るような声が出た。


「えっ?」

「無礼を承知で申し上げます。お帰りくださいませ。いますぐに取りかかれば多少は見られるものになりましょう。のんびりお話している時間はございません。お帰りくださいませ」

「み、見ていてはいけませんか」

「祈りを縫いつける過程をご覧になったとして、その祈りが聞き届けられるとお思いですの……?」

「失礼しました、お暇します。謹んで帰宅いたします、いますぐに!」


ピッと音がしそうなほど垂直に立ち上がったルークさまは、ばたばた扉に駆け寄った。


「七日後の朝に受け取りにいらしてくださいませ。必ず仕上げてみせます」

「ありがとうございます。お願いいたします」


ハンカチの刺繍は、古くからある伝統的なお守りである。


信頼のおけるもの、もしくはその持ち主を深く思っているものが刺繍したハンカチを持つと、一度だけ身代わりになってくれる、という。


多くは家族か恋人に頼むもので、祈りを縫うのは、大きければ大きいほどよいとされている。


……信頼をおけると、あのひとが思ってくれたのだもの。それに恥じないものを渡さなくては。


よし、と深呼吸をした。
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