あなたに呪いを差し上げましょう
一面に幸福のシンボルを刺繍し終わったのは、約束した七日目の、空が白みはじめる時間だった。


渡された白いハンカチに白い糸で刺繍をしたのは、軍人のハンカチは真っ白でなくてはいけないと、どこかで読んだからだった。


なんとか終わった安心感でうとうと舟を漕いでいると、聞き慣れた扉を叩く音が聞こえた。


思わず少し笑ってしまいながら、慌てて扉に駆け寄る。もしわたくしが寝ていたら、どうなさるおつもりなのかしら。


こんなときまでこちらを起こさないことに重点を置いた、控えめな音だった。


「いらっしゃいませ。わたくしの祈りを精一杯込めたつもりです」

「ありがとうございます」


説明する時間も惜しく渡すと、大事そうに受け取ったルークさまは、「あの、アンジー」と言いよどんだ。


「お代なんておっしゃったらお恨み申し上げますわ」

「……でも、こんなに素晴らしいものをただでいただくわけには」

「わたくしの祈りに値段をつけようとおっしゃるのですか」

「あなたの言い値で」


ぎゅうと口を引き結んだ。なんてことを言うのかと思った。


「……わたくしは、あなたさまのハンカチに刺繍をする誉れをいただきましたわ。ですから結構です」

「それは」


不自然に途切れた続きは、こちらがお願いしたのだから、かしら。強情な方ね。


「……ただいまを」


代案を言ったのに、うまく伝わらなかったらしい。ぽかんとしたままなので、仕方なく言い直す。


「わたくしの言い値でよろしいのでしたら、わたくしは、できる限り早く、あなたさまのただいまを聞きたいです。ですからわたくしに、あなたさまをお出迎えする機会をくださいませ」

「え……」

「どうぞご無事にお帰りください、と申し上げております」
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