あなたに呪いを差し上げましょう
「申し訳ありません。わたくしの生きる理由は、あなたさまのおそばにはございません」


匿ってもらわなければ生きていけないほど、落ちぶれたつもりはない。


わたくしには矜恃がある。守られなくては生きていけないなんて、そんなか弱くてかわいそうな者になったつもりはない。


「あなたさまこそ、わたくしなどと共に終わってはいけないお方です。ですから、この名や身でよろしければ、いくらでもお使いください」

「……アンジェリカ」


たしなめるような、咎めるような呼びかけに、頑なに首を横に振る。


「わたくしは、あなたさまに攫われるわけにはいかないのです」

「なぜ……!」


ルークさまの問いかけは、吠えるような絶望に染まっていた。


「いやですわ。……おわかりに、なりませんか」


こちらの返事は嗄れてかすれて、揺れていた。


「父は、公爵閣下は、わたくしを除籍して養子を取れば解決するのに、そうはなさらなかったのです。離れた場所でこそあれ、ちいさな屋敷をよく整えてくださいました。どなたもなりたがらないでしょうに、世話係も探してくださいました」


もうきっと確信を持って予想されているだろう身分を、隠す必要はない。


「……いまの世話係は、もう、二十人目ですの」


子女が顔に火傷を負うなんて、たしかにたいへんなことよ。


でも、それだけで、これほど悪評がつきまとうわたくしの世話係になろうとは、だれも思わないもの。


父がよい条件をそろえてくれたからこそ、あの無口で器用な娘は公爵家の門を叩いたのだ。


「三度の食事はあたたかく、寝床は心地よく、いつも快適に過ごしております。ちいさな部屋ですけれど、わたくしの部屋にも過ごしやすいようにたくさんの温石と氷を届けさせてくださいます」


寝苦しくはありませんか、と世話係におそるおそる聞かれたことがある。いいえ、ちっとも、と答えた。


それはおそらく、父が聞くように命じてのことだった。
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