あなたに呪いを差し上げましょう
「ルークさま、アンジーという品種の薔薇があるのをご存じですか」

「いいえ。どのような薔薇なのです?」

「赤い薔薇です」


珍しく通年咲くので園芸種として好まれていて、とてもかぐわしい香りがしますの。


「チェンバレン公爵家に、薔薇園があるのはご存じでしょうか」

「ええ、もちろん。うつくしいと評判ですし、あなたと出会った場所ですから」

「そうですわね。……ルークさま、公爵家の薔薇園に咲く薔薇の名は、アンジーというのです」


アンジェラ。俗称アンジー。


おまえの花だよ、いつかの父は笑った。

おまえと同じ色をした、おまえと同じ名前の花だから、おまえが生まれた年に植えたのだ、と。


先日訪れた薔薇園では、生け垣の形はいろいろと変わっていたけれど、いまだにその薔薇が、思い出と変わらずよく手入れをされて咲き誇っていた。


「夜会に呼び寄せるときは必ず新しいドレスを仕立て直して、夜会当日は朝から世話係を寄越してくださいます。せめもの暇つぶしにと、書物も部屋に入りきらないほど贈ってくださいました」


ルークさまからいただいた本は、自分の稼ぎで買った本と一緒に本棚に置いてある。


その本棚の隣に、もうひとつ本棚があり——なかのすべての本に、流麗な字で一筆箋が添えてあった。わが娘へ、と。


それだけだったけれど、他にはなにもない、ただ一言で充分だった。


一筆箋なのは、傷をつけると古本として売れなくなるからでしょうね。売り払うなんてありえないことなのに。


どこがきらわれているというのか。いったいどこに、きらいな娘にこれほど私財を投げ打ち、気にかけてくれる親がいる。


天使なんて名前を、きらいな娘につける親はいないと信じている。


父はいつも略さずアンジェリカと呼んだ。贈られる品物も、心尽くしのものばかり。


閣下と呼ぶのは父のため。せめて少しでも迷惑をかけないように、わたくしが勝手にそう呼びたいだけだ。
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