あなたに呪いを差し上げましょう
「わたくしがいなくなれば閣下に背くことになりましょう。わたくしは、わたくしが受けた恩のぶんは返さねばなりませんし、わたくしができうるすべてのことを以って、閣下に報いねばなりません」
ぎゅう、と両手を組む。
「もしわたくしがほんとうに身を売ることになるのなら、そのときは陛下の御下知として拝命するのですから、逆らえば謀反と見なされ一家郎等死罪です。領民にも被害が及ぶやもしれません」
あの令嬢は呪われている、と言い始めたのは、近くの領民だった。それでも、大事で大好きな領地に住んでいるひとたちだった。
「ですが、お引き受けすればいくらか褒賞がいただけます。いままでの諸々を差し引いても、きっと手切れ金程度にはなりましょう。お世話になった閣下にささやかな恩返しができるでしょう」
ですからわたくしには、あなたさまに攫われる前に、しなければいけないことがございます。
「あなたさまに攫われるのは、父に報い、わたくしが必要なくなったときです。仮にも公爵家の娘、ましてやわたくしはあの呪われ令嬢ですもの。この首を欲しがるお方は現に大勢いらっしゃいますわ」
せめて、窮地には選択肢になりえたいとずっと思ってきた。
わたくしの首で代われるだれかやなにかが、きっとあると。
そのときにこそ、わたくしはこの国を出奔しようと。
たとえその行き先が、空になっても、敵地になっても。
「いま、わたくしが差し出せる最大の価値あるものは、この身にございましょう。……この首ひとつでいくさがおさまり、平和が訪れるのでしたら、安いものですわ」
「なにもあなたがそのような」
「いいえ。……いいえ。これは、わたしの望みなのです」
はじめて人前で自分をわたしと言ったわたくしに、ルークさまは、アンジー、と泣きそうな顔でこちらを呼んだ。
ぎゅう、と両手を組む。
「もしわたくしがほんとうに身を売ることになるのなら、そのときは陛下の御下知として拝命するのですから、逆らえば謀反と見なされ一家郎等死罪です。領民にも被害が及ぶやもしれません」
あの令嬢は呪われている、と言い始めたのは、近くの領民だった。それでも、大事で大好きな領地に住んでいるひとたちだった。
「ですが、お引き受けすればいくらか褒賞がいただけます。いままでの諸々を差し引いても、きっと手切れ金程度にはなりましょう。お世話になった閣下にささやかな恩返しができるでしょう」
ですからわたくしには、あなたさまに攫われる前に、しなければいけないことがございます。
「あなたさまに攫われるのは、父に報い、わたくしが必要なくなったときです。仮にも公爵家の娘、ましてやわたくしはあの呪われ令嬢ですもの。この首を欲しがるお方は現に大勢いらっしゃいますわ」
せめて、窮地には選択肢になりえたいとずっと思ってきた。
わたくしの首で代われるだれかやなにかが、きっとあると。
そのときにこそ、わたくしはこの国を出奔しようと。
たとえその行き先が、空になっても、敵地になっても。
「いま、わたくしが差し出せる最大の価値あるものは、この身にございましょう。……この首ひとつでいくさがおさまり、平和が訪れるのでしたら、安いものですわ」
「なにもあなたがそのような」
「いいえ。……いいえ。これは、わたしの望みなのです」
はじめて人前で自分をわたしと言ったわたくしに、ルークさまは、アンジー、と泣きそうな顔でこちらを呼んだ。