あなたに呪いを差し上げましょう
「おまえも、こちらに来るか。部屋は余っているが」


おまえの部屋はあるとは言ってくれないのね。いえ、あちらに住んでいたときから、ほとんどないに等しかったけれど。


「いえ。ご迷惑をおかけするわけには参りません」

「迷惑などとは思わない。わが公爵家は、それほど落ちぶれてはいない」


口下手ねえ、と思った。


父は母を言葉のうまさで口説き落としたのではなかったのかしら。とっさのときのわたくしのよくまわる口はきっと、お母さまに似たのね。


「閣下」

「なんだ」

「王国民の精花はいま、戦火の只中にありましょう」


ルークさまの出陣は、我が国の状況がそれだけ重要で切迫しているという証。


「わたくしは、覚悟はできております。服毒か自刃か、火刑か、斬首か。なんでも構いません」


わたくしが終わるときは、見せしめのためにこそ。

そう望まれる現状では、瞳の赤になぞらえて、薔薇の花弁とむせかえるような香りに溺れるだなんて、優雅な終わりはかなわないでしょう。


どれも痛くて苦しいに違いないもの、なんでもいいわ。事故や病死に見せかけた暗殺は、いささかわかりにくくて少しいやだけれど。


いにしえより、人々は怪物には火を向けてきたのだから、わたくしもやはり、言い渡されるなら火あぶりかしら。


どうせなら、最後はだれの目にもわかりやすいものがいい。


「必要とあらば、いつでもお命じください」


灰色の瞳がこちらを向いた。


「アンジェリカ」


頑なに名前を呼ばなかった父が、強く言った。


「ばかなことを申すな」

「……はい、閣下」


まだ、ばかなことと言ってくれるのだと、思った。
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