あなたに呪いを差し上げましょう
「…………あなたという、ひとは」


わたくしは死ぬはずだった。それがなんの因果か生かされた。


忌子で、不吉な子どもで、生きていることを大勢からは望まれなかった。望んでくれたひとも心変わりした。


わたくしは、自分の至らなさによってではなくて、外見というどうにもしようがないことによって、儚くなることを決められ、望まれ、願われた。懇願された。


死ぬはずだったのなら、死んでもいいと思っていた。

死ぬべきだと思っていた。

死ぬだろうと思っていた。


いつなら一番いいだろうと、死ぬのなら、意味や価値がある散り方がいいと思っていた。


死ぬとき(おわり)がよければ、生まれたとき(はじめ)も少しはよくなるのではないかしら、なんて理由で。


「……私も、死にたいと、殺される前に死ぬしかないと思っていたよ」


私は、兄上が好きだからね。不悌をする気にはなれなかった。


ルークさまが静かに目を伏せる。


王は、頂点だ。下には必ずひとがいる。

権謀術数渦巻く王宮で、そのなかには、王位を狙う輩もいるかもしれない。


「王は窮屈だよね。王位を狙われることに、一生怯え続けなくてはいけない。王位を狙う手段はいろいろあるけれど、多いのは弑殺(しいさつ)だからね。弟って存在がどれほど必要でどれほど厄介か、兄上たちは言い聞かせられ、体験させられてきたと思うよ」


担がれたらその気がなくても危険になりうる。いまはその気がなくてもいつか気が変わるかもしれない。


「そんな面倒なもの、真っ先に滅ぼされて当然だと思っていたよ」


でも、兄上たちは、異腹の弟を気にかける、よい兄でいてくれた。


「おまえの声は青色をしていると、兄上に褒められたことがあるという話を覚えている?」

「ええ。すてきなお兄さまですね、と申し上げたかと思います」


そうだったね、と頷いたルークさまは、夢見るように微笑んだ。
< 84 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop