あなたに呪いを差し上げましょう





アンジーの屋敷を出たあと、すぐさま王宮に向かった。

王国の威信をかけてつくられた白亜の城の、一の宮に呼ばれていると、帰路で伝令を受けていた。


汚れがひどいのを、応接間まで来てから思い出した。


いままでもそうだったのだから陛下への謁見はこれでも構わないけれど、アンジーのところにこんな格好で行ったのはよくなかったかもしれない。


荒事に慣れていない女性に、薄汚れた格好と汗と泥の匂いをまとって近寄ったのは、のちほど厳重に謝ることにする。


……きらわれていないといいのだけれど。


簡単に謁見と報告を済ませて一の宮を出ると、遠くから呼びとめる声があった。


「おかえり、ルーク。無事でなによりだ」

「兄上! ご無沙汰しております。ただいま戻りました」


砕けた挨拶をしながら近づくと、「さて、夕方まで時間はあるか」と微笑まれた。


「今日も明日もあいております」

「それはいい。わたしの宮においで」


はい、と頷くと、兄はにこやかに隣に並んだ。


次期王の後ろではなくて隣を歩かせるのは、気遣いだとずっと知っている。遠くから声をかけるのも、愛称を呼ぶのも、おかえりと言うのも、無事を喜ぶのも。


兄の部屋に着くと、二の兄がもうすでに待っていた。


人払いをして戦果を報告する。一通り話し、無事でよかった、とふたりに微笑まれたところで、手元のグラスになみなみと酒を注がれた。


いやな予感がする。


「王都の広場に、おまえの姿をかたどった銀の像をつくるという話が出ているよ」


二の兄に振られた突然の話題に、思わずごほ、と咳き込みかけた。


こちらが酒を含んだのを見計らったようなタイミングだった。実際見計らったのだろう。
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