あなたに呪いを差し上げましょう
さすが英雄だね、と二の兄におかしそうに笑われて眉をしかめる。


「笑いごとではありません。国庫の財をそのようなものに使うなど」

「完成した暁には、髪を金箔でぬり、両の瞳には青い宝石をはめるそうだよ」

「もしそれが広場に飾られても、荒らされないだろうわが国の治安のよさは誇りに思います。……兄上、そんなことを言い出したのはどなたです?」

「もちろん私だとも」


絶対にそうだと思った。


なにが話が出ているよ、だ。この兄たちは——特に二番目の兄は、少々悪ふざけをするきらいがある。それが自分の身を守るためとはいえ。


「おやめください。像など邪魔になるだけです。そもそも像をつくるなら、私などではなく、陛下が先です」

「家族全員でつくりましょうとは言ってくれないのか。寂しいねえ」

「全員の肖像画がありますので。民草の敬意はものに示させるものではありません。われわれの行動にともなうものです」


言い募ると、では代わりに新しい武勲詩をつくらせよう、と微笑まれた。


「腕のよい詩人を呼んであるよ。明日にでも会うといい」

「かしこまりました。ありがとうございます」


明日はあけてある。兄がいくさから帰還した私の武勲詩をつくらせるのは、毎度のことだ。


「銀の像も武勲詩も偶像として扱われることに違いはないのに、ルークは武勲詩はいやがらないねえ」

「あることないこと話を盛りに盛られるのは不本意ですよ。筋骨隆々な体つきですとか、剣のひと振りで百人を倒したですとか。……ですが、私が英雄などという過分なものになるためには、必要なことと心得ておりますので」


それが、兄たちのやさしさであることも。

お礼を言ってもはぐらかされるだけなのは知っているから、言わないだけだ。
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