あなたに呪いを差し上げましょう
「過分なわけがあるか。おまえは、もう少し自分を見つめ直したほうがいい」

「兄上の言うとおりだとも。銀の像だって、私が無理におした話ではないのだよ」

「それはそれでわが国の将来を憂いたくなりますのでおやめください」

「いいじゃないか。それだけわが国は平和に向かっていて、おまえが好かれているという話だからね」

「光栄に存じます」


おざなりに答えると、含み笑いで酒をすすめられた。


……これはなにかある。


眉をしかめないようによくよく気を配って、なにか言われる前に急いで飲み干したグラスを置くと、一の兄がなんでもないことのように涼しい顔で言った。


「それで、ハンカチはどなたに頼んだんだ」


……兄がふたりともそろった時点で、この話題を振られるに違いないと、思ってはいた。


私がはじめてハンカチの刺繍を頼んだことは、やはり耳に届いていたらしい。


騎士団を応援しているだとかいうご令嬢からハンカチに刺繍をさせてほしいとしつこくねだられて、うっかり「信頼のおけるひとに頼んだので」と答えてしまったのが悪かったのだと、つい先日知った。

いままでは「ただのハンカチに刺繍はいりません」などと言っていたのに、と街で噂になっているというから、当然のことかもしれないけれども。


どなたに頼んだんだ、なんて白々しい。名前から素性まで知っているに違いない。


にやにやしながら聞いてくる兄たちに、ひとの恋愛話はそれほど面白いだろうかと、苦笑いしてしまった。


「刺繍の腕のいい、信頼のおけるひとに頼みました」


一番無難な答えでどうにかならないかと思ったものの、兄たちは続きをうながした。
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