あなたに呪いを差し上げましょう
頼み込んでなんとかつけてもらった家庭教師から、成人するまでにたいていのことは一通り教わった。

ダンスやサロンといった社交のことはそれほどわからないけれど、どのみち社交なんてできないから、知らなくてもいい。


得意の刺繍と写本でささやかながら収入がある。時間はたっぷり余っているものだから、どんどん上達してしまったのよね。


呪われ令嬢の名前を隠して城下町の市場に売ると、少しは腕がいいらしく、小金にはなった。


自分のことはできる限り自分でするようにしていたら、いまとなってはもう、屋敷に来るのは世話係だけになった。


(つき)の日、(ほのお)の日、(みず)の日、()の日、(きん)の日、(つち)の日、()の日とある七日のうち、世話係は水の日と土の日の二日間だけ様子を見にやって来る。

ちいさなころに顔に大きな火傷を負った娘が、もうどこにも行けないからと、おそるおそるわたくしの世話係を始めたのは、五年前になる。


ときたま、ひとりでも着られる簡素な服だとか生活用品だとかを頼む。

荷物を受け取ってあいた手に、刺繍を済ませたハンカチや写し終わった書物の原稿を渡して、市場に持っていってもらう。


そうやってささやかに毎日を消費する。


わたくしはあとどのくらい生き続ければいいのかしら、と思いながら。
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