あなたに呪いを差し上げましょう
「無粋なことを聞くのは気が引けるのだが、かわいい弟を応援するために、選んだ理由を聞かせてくれないか」

「ほんとうに応援するためだけですか」

「応援二割、興味八割だな」


ため息を吐く。


応援が少しでも入っているのなら、言わないわけにはいかない。


彼女は王国民で、身分と状況も特殊で、しかもこちらの片思いである。引き裂くのは容易だろう。言わずに逃げさせてはくれないらしい。


「私の髪は月のようだと、以前、彼女が笑ってくれたことがありました」


それだけで通じた。ふたりの兄の顔が、途端に真剣になった。


「おまえとお相手に謝罪して訂正する」

「それは、応援十割に変更だなあ。うちのかわいい弟は見る目があるね」

「ありがとうございます。……彼女は、すてきな女性です」


私の髪は、兄上たちよりも一段暗い。それを、かつては異腹ゆえにおとしめられたことがあった。


『月は太陽によって輝くと申します。私は、兄上によって光当たる身。兄上が道をお示しくださるからこそ、粗野な私にも、振るえる剣があるのです』



幼い子どもの必死な建前を、『兄を立ててくれてありがとう』『おまえの活躍を楽しみにしているよ』と兄たちは笑って受け入れてくれた。

そうでなければ危うい発言だった。


それから、わたしの月、わたしのかわいい弟、ルークと、兄たちが自分を呼ぶようになった。


明るくなくてよかった、と思う。兄より目立ちたいと思われずに済む。


いまよりも騒乱の火種になっていたらと思うと、心の臓を氷につけられたような、おそろしい心地がする。


言祝(ことほ)ぎをくれたこともあります。眠れない私に、星の名をなぞるとよいと、一緒に星の名を覚えてくれたこともあります」


そうか、と言われた。はい、と頷く。


「得がたい女性を得たな」

「はい。いえ、得られるかはわかりませんが、少なくとも得がたい友人は得ました」


思わず噴き出した一の兄に代わって、二の兄が話を引き継いだ。
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