あなたに呪いを差し上げましょう
「……呪いが怖くはありませんか。わたくしは、あの方を内側からむしばむ魔女かもしれませんわ」


意地の悪い質問に、いいえ、と声がそろった。即答だった。


「団長に言祝(ことほ)ぎをくださったとうかがっております」

「わたくしは、呪いを差し上げただけで……」


深く腰を折られて慌てると、よく通る声が続けた。


「星の名を教えていただきました」


唇を噛んだ。……あのひとは、なにをしているのか。


「夜眠れずにいるとき、寝酒か薬か色か倒れるような訓練に頼るしかなかったわれわれは、戦地ではどれも難しく、喘いでばかりでした。ですが、団長が、星は毎夜輝くと」


二人で探した、夜空に冴えざえと満ちる星々を思い返す。


「……みなさまは、穏やかに眠れていらっしゃいますか」

「ええ、おかげさまで。ありがとうございます。われわれからもお礼申し上げます」


いいえ、と首を振った。


「わたくしは戦えません。いざというときに身を守れません。いつも王国を守っていただいてありがとうございます。こちらこそお礼申し上げます」

「過分なお言葉をありがとうございます」


腰を深く折ったまま、先頭の騎士が、ゆっくり口を開いた。


「無礼を承知で申し上げます」


かたい声だった。


「われわれは、団長にしあわせになっていただきたいと思っております。そしてそれは、できるなら、あなたさまのような方がよいと」

「わたくしには、あまりよくない噂がございます。ご存じありませんか」


意地の悪い質問に、騎士は怯まなかった。


「存じ上げております」

「では、星の名のおかげでしょうか」

「それもありますが、われわれ騎士団は、貴族の方にお礼を言われることは多くありません。重ねてお礼とお願いを申し上げます」


……われわれでは、足りないのです。
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