あなたに呪いを差し上げましょう
「わたしどもは、あのお方のご判断に黙々とついていくことはできます。裏切らないこともできます。背中をお守りし、活路を切り拓き、おそばで剣を振るうことはできます。ですが、それまでです」


地面を見据えるまなざしは、射抜くように鋭い。


「われわれでは、足りないのです。わたしどもは、あなたさまの代わりにはなれません」

「わたくしも、あの方にしあわせになっていただきたいと思っておりますわ」


ありがとうございます、とより深く腰を折った騎士たちに、ルークさまを呼んでもらえないか頼むと、一番後ろにいた若者が、飛ぶように駆けていった。


しばらくして、居並ぶ騎士の間からうつくしいひとがあらわれる。


「アンジー、どうした? なにか失礼でもあっただろうか」

「いいえ、みなさまお褒めくださいました。ですが……失礼ながら、ヴェールごしだからかしらと、思ってしまって」

「ヴェールを外したいということかな」

「ええ。ですが、あなたさまに尋ねずに外すのもいかがかと思いましたので、確認を」

「それは、私が彼らの団長だから?」


確信を持って問いかけられて頷くと、深々とため息を吐かれた。


「わかっている。素顔は私以外に見せたくないなんて理由でないことはわかっているとも。あなたは呪われ令嬢などではないこともわかっているので、あなたがおいやでないなら外してくださっても構わない」

「わかりました。おいやな方はどうぞ目を伏せてくださいね」


断りにだれひとりとして目を伏せなかった。ひたりと全員がこちらに合わせてきて、ああ、ほんとうによく練られているのだわ、と思った。


ゆっくりヴェールを外す。これで、性格の悪い令嬢と、思い直してくれたらいいのだけれど。


きりりと見据えると、息を呑む音が重なった。


ひとりひとりと目を合わせて、少し困って微笑んでみて——「これ以上はだめだ」と上から降ってきた低い声に肩を引かれ、視界になにやら模様が舞う。


乱雑にヴェールをかぶされたのだと気づくのに、しばらくかかった。
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