あなたに呪いを差し上げましょう
「あの、ルークさま」

「だめだ。だめです。いくら部下とはいえこれ以上はだめだ」


だ、だめですとは。おかしな勢いで言葉が乱れている。


「ルークさま……?」


アンジー、と低く呼ばれた。


「すまない。私が耐えられない」

「お見苦しいものをお見せいたし」

「違う。断じて違う……!」


強い否定だった。落ち着いて淡々と話す、そうせよと訓練を受けてきた理性的なひとの、強い否定だった。


珍しく声を荒げたのは、これは声を荒げてでも強く否定しなければならない、というやさしさだ。


それはわかる。でも、急に遮られたのはよくわからない。



思いきり遮られて戸惑っているうちに、ルークさまが「素顔を見て考えを改めた者はいるか」と唸るように問い、いいえ! と地鳴りのような野太い返事が寄越されて、失礼します、と足音高く騎士たちが踵を返した。


だそうだ、と言われたけれど、いえ、あの、なにがなんだか……。


結局わたくしが意地が悪いのを、わかってもらえたようには思えない。


「アンジー」

「はい」


かすれかける直前のような、ひどく色気のある声。


「好きな女性がうつくしいのを、大声で喧伝(けんでん)して回りたい男はいない」

「さようで、ございますか」


呆けたように相槌を打つ。それしか出てこなかった。


このお方は、いろいろをさらりと言い過ぎる。


「……私がいないときに困ったら、あの者たちに声をかけてほしい」

「ありがとう存じます。そのようにいたします」


「それから」


手が離れて、同時に高い体温もするりと離れた。


「許可なく触れた。申し訳ない」

「いいえ」

「……アンジー。私は、あなたが許してくれる理由が、身分でなくなることを願っている」

「もったいないお言葉をありがとう存じます」


ぐ、と喉の奥で低くつかえたような音がした。


静かな瞬き。


わたくしはこの方の、丁寧に言葉を考えるとき、瞬きをする癖が好きだ。言えはしないけれど。
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