あなたに呪いを差し上げましょう
「アンジー、気を悪くしないでほしいのだけれど」

「なんでしょう」

「染粉が手に入ったんだ。……よかったら使ってみるかい」


そっと差し出されたのはうつくしい瓶に入った液体だった。ラベルを見ると頭髪用の染料で、液体は王国では一般的な髪色の茶色をしていた。


振りかけるだけの、すぐに落ちてしまう粉末なら試したことがある。

こちらは粉末を溶かしたとろみのある液体で、洗髪する際に染みこませるように使うものだそうだ。


「ありがとう存じます」


笑って受け取ると、あなたの髪色は好きなんだけれどとか、おいやなら無理にとはとかまごまごと言い募っていたルークさまは、ほっとしたように口を閉じた。


その律儀さが、ルークさまがルークさまたるゆえんなのでしょうね。


……きっと、もっと早くに知っていたはずだもの。それをいまのいままで差し出さず、渡すときも迷ってこちらを慮ってくれて。


少し前にこちらに戻ってきた世話係に、染粉を買ってきてもらうという発想はなかった。

こういうものがあることさえ知らなかった。


粉を振りかけるのは手間がひどく、服も汚れて不自然で、雨風の強い日には向かない。洋服にも色がつくうえ、よい色は出ない。


ヴェールのほうが手間が少ない。世話係に頼んだら、だれに仕えているのかわかっている者たちには筒抜けになってしまうし。

だからいままでずっと、ヴェールをかぶってきた。


ひとりになってからさっそく使ってみたけれど、黒が強すぎて勝ってしまうのか、思ったとおりには染まらなかった。


太陽光に当たると、少しだけ茶色がかって見える程度。


もともと薄い髪色でないと、うまく色が出ないのでしょうね。ルークさまのような金髪だったら、きれいに染まったのかしら。
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