カエデ並木に君の後ろ姿
君は女優をしている。

かつ同性愛者ではない。


というのも、玲子というのを僕は誰のことか知っている。


玲子とは、君が今回初めて連続ドラマで得た役の名前なのだ。



コーヒーカップをテーブルに戻した君はこちらにしっかり視線を向け、また続ける。



「前から考えてたことなの。それにちょうど今、決心がついた」


ああ、だんだん話が見えてきた。



おそらくこれは別れ話なのだ。


美味しいコーヒーと愛しい君で満たされた幸せから一変、急に奈落の底に突き落とされた心地になった。



頭が真っ白で上手く働かない。



少し落ち着こうと僕もコーヒーに手を伸ばした。

君と同じようにただカップを持ち上げてひとくち飲んだけれど、たぶん君みたいな優雅さはこれっぽっちもないのだろう。



さっきまですごく美味しかったはずのコーヒーはもう全く味がしない。



「決心?」


どんな決心か、それを尋ねればきっと君は決定的な一言を口にしてしまうのに、僕は続きを促した。



「あなたと別れる決心」



君は僕の目をまっすぐに見つめて、そうはっきりと口にした。



ああこれで君と僕はふたりの関係に終止符を打つ。


しかし君の言葉を聞いて気づいた。


おそらく僕はいつかはこうなると予感していたらしい。


芸能人と一般人のカップルが上手くいかなくなるのはフィクションの世界でありきたりだからだろうか。



君が次第に忙しくなって、君の姿を見るのが直接会うよりも雑誌やテレビで見るのが多くなってきた頃から、僕は君がどんどん遠くへ行ってしまうような気がしていたんだと今更ながらに気づいた。
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