カエデ並木に君の後ろ姿
「マネージャーにはあなたのことを話してあった。

マネージャーはあなたとのこと協力するとも言ってくれてた」


台本があるかのように、君は澱みなく言葉を並べる。



「それでしばらく考えてたの。あなたと仕事、私が今優先したいのはどっちか。

ずっと決められなかったんだけれど、」


君は一呼吸置いて続けた。



「今決心できた」



君の目はずっと僕をとらえたまま、一瞬もぶれることはない。



「あなたと、あなたが見つけてくれた素敵なお店でとっても美味しいコーヒーを飲んだ。

最近忙しくなってきて、しかも私の仕事は時間が不規則だし、あなたに落ち着いて会えたのは久しぶりだった。


でもね、あなたが『コーヒー美味しいね』って言った時に私はあなたと過ごしているのに、玲子のことを思い出してた」



君がどんどん早口になって、言葉に熱がこもり始める。



「玲子がこうやってカフェで主人公とコーヒーを飲むシーンがあるの。こんなふうに内装が素敵なお店に来て、テーブル席に向かい合ってコーヒーを飲むの。

そのときの玲子の一言で、悩んでいる主人公の心が決まる大事なシーン。

間違いなく玲子の山場のシーン。


その時の玲子はこんなことを考えるかもしれない。


玲子はオシャレで大人っぽくてインテリアとかにも興味のある女の子だから、まずお店に入った瞬間は内装に感動するんだろうな、決して言葉には出さないし、もしかしたら表情にも出さないけれど、玲子の心は確かに踊るはずなの。


それからきっとカフェオレよりもブラックコーヒーが好きで、いろんな喫茶店に行っていろんなコーヒーを飲んだことがあって、だからここの豆はこんな味がするんだって、頭の中にあるコーヒー図鑑みたいなのに新しく書き加えて、」



呼吸するのを忘れて喋り続けていた君が、思い出したように息を吸い込む。
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