カエデ並木に君の後ろ姿
「そうか。分かった」


話してくれてありがとう最近会えることも少なくなってたしな僕ももう潮時かなとは思って……



それ以降はもう自分が何を話しているのかも分からずに、ただひたすら言葉を並べた。

一度言葉を切ってしまえば、もう心の盾が破れてしまうだろうと感じていた。



駆け出しなりとも演技のプロである君に、こんな凡人の演技は通用するのだろうか。


しっかりと強がれているのだろうか。



そんな僕の心配を汲んでくれたのかもしれない、君はにこりとだけ微笑んで僕の言葉を遮った。



「理解してくれてありがとう。私もうそろそろ行かなくちゃ」



綺麗だ。

その小さな微笑みたったひとつに計り知れないほどの説得力。



ああ、そう曖昧に返事をして僕は伝票をもって立ち上がる。


すると君はその伝票をひょいと取り上げた。



「もう割り勘にしよう」



今まで何となく、こういう喫茶店やカフェに寄ってお茶をした時は僕が払うことが多かった。


基本的に僕の行ってみたいお店に行くのに君に付き合ってもらうことが多かったから、お礼として払うのは当然だと思っていた。



初めは君も遠慮していたが、お金を受け取ってもらえないと観念した君は、お互いの家で会う時に手料理を振る舞うことで折り合いをつけたらしい。



コーヒー一杯で君の美味しい料理をお腹いっぱい食べられるのなら、何杯でもご馳走したいと思った。




ああ懐かしい。

君とはそんなこともあった。



それももう今日で終わりなんだ。


まさか1ヶ月前に食べたのが最後になるとは思わなかった。

1ヶ月前に食べたのは何だったろうか。



……ああオムライスだ。



うん確かに覚えている。




何度も食べた君のオムライスの味は確かに舌が覚えている。


そんなことで何故だか分からないけれど、どこか安心できる自分がいた。
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