彼は腐女子を選んだ

春の芸術祭が終わると、今度はクラス中、いや、学年中が浮き立ち始めた。

待ちに待った修学旅行がまもなくやってくる。

今年はシンガポールから、マレーシアやインドネシアの島々に分泊して南の島の産業を学ぶ……ということになっている。


私たちのチームオタクは、ビンタン島に行く予定だ。

名産物のドリアン農場視察と本場のドリアン食レポが大義名分だが、その実、やりたいことは、わずかな自由時間にリゾートホテルで優雅なバカンス気分を味わうことと、現地のオタクカルチャー状況の把握だ。

特に腐関係の現況には興味津々。

なんせ、インドネシアは同性愛禁止のイスラム教徒が90パーセントを占める国だ。

そんななかでもオタ活に励む同志との交流って、濃いわ、濃すぎるわ。




放課後、それぞれの目的に沸く教室で、ふと違和感を覚えた。

それが何なのかよくわからなかった。


ぐるりと教室を見渡して……杉森くんと、目が合った。

び、びっくりした！


慌てて目をそらした。



いや、別に、杉森くんを見つめてたわけじゃないし。

たまたま、だし。



……てか、杉森くん……なんか……変じゃない？


相変わらず、クラスの最大勢力、カーストの頂点でみんなに囲まれてるのに……どこか、はじけてないというか……他の子とノリが違う。


いや。

考えてみれば、常にそうだったかもしれない。


いつも笑顔で騒ぎの中心にいながらも、杉森くん自身は決して悪ノリはしてないような気がする。


冷静なのかな。

……。

私も、冷静になろう。



気を取り直して、ビンタン島の資料に目を通した。



不意に、背後からエエ声が降ってきた。

「堀さん。帰り、時間ある？ちょっと、頼みたいことがあるんやけど……つきあってもらえへんかな。」


「へ？私？」

驚いて、振り返った。


杉森くんが、申し訳なさそうに頷いた。


なんで？……なんで、私？と聞きたかったけれど、杉森くんがあまりにも……かっこよくて……私は操られるように頷いていた。