彼は腐女子を選んだ
もし、宿泊施設が日本の修学旅行生専門の昔ながらの旅館だったら……私は、本気の枕投げの標的にされた上で、根ほり葉ほりあきらとの仲を問いただされ、別れを強要されたかもしれない。

でも、飛行機で7時間飛んでやって来たシンガポールのホテルで雑魚寝はない。


仲良しのひかりんと2人の部屋で、私はようやく息をついた。



「……あきら、来れなくて残念ねえ。」

しみじみとひかりんがつぶやいた。


私は、答えようがなくて……黙って頷いた。


「急な仕事だって。修学旅行の時ぐらい、融通してくれたらいいのにねえ。」

「……仕事なのか。」

あきらの欠席の理由付けがいつも通り「仕事」なことに、何となくホッとした。

本当の理由を隠したということは、まだあきらは学校生活を諦めていないのだろう。


「まさみん、聞いてなかったの?」

ひかりんに尋ねられ、私は頷いた。


「……えーと……連絡してる?」


気遣わしげに聞かれて、私は首を傾げてから、当たり障りのないことだけ言った。

「出発前に連絡あった。写真撮ってきて見せてくれって言ってた。」

「ふぅ……ん……」

ひかりんは、微妙な反応をして、押し黙った。


気になったけど、あまり突っ込まれても困るので、それ以上触れないようにした。


でも、ひかりんは気になっていたらしい。

順番に部屋のシャワーで汗を流して、夕食までのひとときをゆっくりしていたら……真面目な顔で、ひかりんが言った。

「まさみん。いいかげん、あきらの気持ちにあぐらかくのやめたほうがいいと思う。」

「……。」

突然はじまった説教に、私は憮然として、まじまじとひかりんを見た。

「ほら。その顔。……私は、慣れてるけどさ……あきらは、傷ついてると思う。もうちょっと愛想よく……とは言わんけど……。」

「……すまんな。これは、私の地顔だから。」

むすっとしてそう返事したら、ひかりんは肩をすくめた。

「……私かて、こんなこと、言いたくないねんで。でも、やっぱり、あきらが気の毒で。……まさみんが、全くあきらに興味ないならともかく……今は、好きやろ?あきらのこと。……そんな顔しても、ダメ。誤魔化されへんで。」

ひかりんは強気に、私の気持ちを決めつけた。

ムッとしないでもないけれど、とりあえず黙っていた。
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