彼は腐女子を選んだ
苦笑して、画面を開くと……そこには、切羽詰まった言葉が羅列されていた。

なになに?


<ごめん!また迷惑かける!>

<何、言われても気にせんでいいから>

<誤解>

<今から、正美ちゃんと行くって>

<ごめん!>




……はあ?


「どしたん?」

不思議そうにひかりんが聞いた。



私も首を傾げながら、答えた。

「うん。よくわからんねんけど、誰か来るって……」



言い終わらないうちに、ドンドン!ドンドン!ドンドン!……と、乱暴にドアが叩かれた。



何事?


「まさみん?え?なに?これ?誰?」

ひかりんが、飛び上がって、オロオロし始めた。



「わからん。……とりあえず出るか。」


ドアの方に行くと、ひかりんが、私の腕をつかんだ。


「え!だいじょうぶ?変質者とかじゃない?開けるの?」

「……いや、一応、あきらの関係者やろ?」


ひかりんの手をそっと振りほどいてから、私はドアスコープを覗いた。



そこには、妖精のような美女がいた。


「……荒川弓子だ……。」


一応、何者か、知っていた。

でもクラスも違うし、話したこともない。

知ってると言っても、私が一方的に知ってるだけで、確実に彼女は私を認識していないだろう。

だって、彼女は、超がつくほどの有名人だから。

あきらのように芸能界にいたわけではないけれど、……知名度と学校にあまり来ないところは、似たようなものかな。


彼女は、将来有望なフィギュアスケートの選手だ。



「荒川弓子?……旅行、来れたんや……。」

ひかりんのつぶやきに、私も首を傾げた。

「ほんまや。てか、めっちゃ久しぶりに見た気がする。……まあ、クラス違うけど。」

「いや、全然学校来てはらへんはずやで。カナダのコーチについてるとか聞いたもん。」

「……もしかして、カナダから来てはったりして?」


ひかりんと顔を見合わせた。


ふたたび、ドンドンとドアを鬼叩きされた。


反射的に私はドアを開けた。

「何ですか?うるさいんですけど。周りに迷惑なんで、やめてもらえます?」

イラッとして、ついつい、きつい口調でそう言ってしまった。


荒川弓子は、怯んだらしい。

「……あ。」
と、小さな声を出して、うつむいた。


頬が、ぶわっと赤く染まった。

恥じ入っているらしい。


……なんか……ちっちゃな子をイジメてしまったような感覚に陥ってしまった。
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