彼は腐女子を選んだ
「堀さん、やっぱりすごいわ。鋭い。」



……ああ……。

目の毒、耳の毒だ……。


微塵も嫌味や下心を感じない、心からの称賛に、私はたじろいだ。




「別に……。」


ぶつぶつと訳の分からないことを口走りかけたとき、図書館に相応しからぬピンクの空気をまとった女子たちがわいわいやってきた。


彼女らは、杉森くんを見つけると、口々に騒ぎ出し……司書の先生に怒られた。




「あーあ……。」

残念そうに、小さくため息をついて、杉森くんは渋々立ち上がった。


「……迷惑かけそうやから、出るわ。ごめんね、堀さん。また、ね。」


申し訳なさそうにそう言い置いて、杉森くんは女の子たちを引き連れて図書館を出て行った。



また、ね……て……。

ただの社交辞令なことはわかっているつもりだが、いかんせん、杉森くんだ。

適当なお為ごかしを言うひとじゃない。


また、が、あるのだろうか……。


やばい。

あんなリア充の代表みたいな男が、私に興味を持つはずがないって、わかってる。


なのに、どうして、こんなに……わくわくしているのだろう。


イケメンこわっ。

くわばらくわばら……。



私は、ふるふると頭を振って、雑念を振り払おうとした。


……ら、杉森くんが座っていた席に、ぽつんと本が置いてあった。

どうやら、忘れて行ったらしい。



ふぅん。

リア充イケメンモテ男は、どんな本を読むのかな?

興味津々で、本を手に取った。


黄色いハードカバーの、そう分厚くない本。

タイトルは『赤毛のギャバン』。



……はい?

赤毛と言ったら「アン」だし、「ギャバン」は宇宙刑事のイメージが強すぎて……これはいったい?


作者は、ジャン・マレー。

聞いたことあるような気がするんだけど……。


翻訳者は、知ってる。

岸田今日子って、昔の女優さんだ。

フランスの恋愛小説……かな?



ぱらぱらとめくって、斜め読みしてみた。



あれ?

これって……子供向けのお話?


へええ。


杉森くん、やっぱりよくわからんヒトだな。


中間テストが終わったとはいえ、何でコレを手に取ったんだろ。



代わりに借りようかとも思ったけど、やめた。

触らぬ神に祟りなし!だ。


かと言って、出しっぱなしも気が引けたので書架に戻した。

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