彼は腐女子を選んだ
<なら、よかった。>

<学校には来週から行けそう。体育の授業は無理だけど。>


……よかった。

残り少ない1学期も、もうこのまま登校できなくならないか……本当は、少しだけ不安だった。


<よかった。みんな喜ぶわ。>


そう返事したら、すこしの間があいた。


スタンプを選んでるのか?

よくわからないまま、しばし待った。


ら、あきらは、恐る恐る、言葉を投げかけてきたようだ。


<正美ちゃんも、俺に逢えることを少しは楽しみにしてくれているならうれしいんだけど。>


……しんどくて、弱気になってるのかな?

たぶん、淋しいんだろうな。


勘違いするな、私。

決して、あきらは、私に愛情を求めているわけじゃない。


喜ぶな、私。

期待するな、私。


何度もそう言い聞かせてから、私は慎重に返信した。


あまりにも、けんもほろろな返答では、あきらを余計に孤独にしてしまうかもしれない。

かといって、浮かれた返事もできない。


瞬時に去来したいくつもの言葉の中から、私が選んだのは……


<楽しい。来週が待ち遠しい。>


すると、あきらは、控えめなハートマークのスタンプを寄越した。


<見舞いに来いひん?>

やっぱり淋しいんだろうな。


ついつい苦笑が漏れた。


<いいよ。いつがいい?またパン買うて行こうか?>

<明日!>


……もしかして、甘えてるのか?

くすぐったいような、不思議な気分だな。


<わかった。今度は面会時間に行く。>


そう返信してから、思い出した。

兄上の結婚する、るうさんのこと。


やばい?


でも、あきらからの返事は、思いも寄らぬものだった。


<とっくに退院して、自宅療養中。だから、うちに来て。>


え……。

いや、それは……。


ためらって返事が遅れた。



<心配しなくても、何もしないよ?>


……はあ?

もしかして、私があきらに襲われることを恐れているとでも思ったのか?


<阿呆か。そうじゃなくて、週末やしご両親もいらっしゃるだろ。気まずくない?>


学校だけじゃなく、親にも、カノジョのふりをさせる気か?


<親は仕事。2人とも忙しいねん。だから、遠慮いらんし。来て。>

……それはそれで、多少身構えるものもあるのだが……まあ、いっか。
何もしない、って言ってるし。
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