彼は腐女子を選んだ
てか、そもそも、そんな元気、もうないよな?

あるのか?

ないよな?


……あるのか?



<わかった。じゃあ明日、パンを買って行く。昼、一緒に食べよう。>


そう言ったら、パンダが泣いてるスタンプが送られてきた。

泣くほどうれしい……わけないよな。

よほど暇で、淋しくて、心細いんだな。


てか、ご両親、お仕事は大変かもしれないけれど……余命宣告されてる息子と過ごす時間を増やしてやってくれればいいのに。


他人事ながら、泣きそうになった。


*****

翌朝、私は率先して家族の朝食のパンを買いに行った。

そして、4人家族分のパンよりも大量に、あきらへのお土産を買った。



「……すげぇ食欲だな。お前も妊娠したのか?」


兄上の笑えないジョークに、両親が私を凝視した。

「ない。私は処女だ。」

そう言ったら、ホッとしたような、ガッカリしたような、微妙な空気になった。



「相変わらず男のケツの話ばかりか?」

兄上にBLをからかわれたけれど、かつてほどは妄想に生きていない。


「結婚決まったからって、余裕ですな。兄上。るうさん、もてそう。寝取られんように、かまったげや。」


「正美!」

なぜか、母に怒られた。



***

あきらの家までは、うちから約8km。

直通のバスがないため、バスと電車を駆使せねばならず、1時間半ぐらいかかってしまう。

タクシーなら30分かからないと、あきらが言っていたが……もちろん、私の選択肢にはない。

慣れた自転車で40分というところだ。


というわけで、11時前に家を出た。


11時半に、迷わずに到着……うーわー……。


豪邸豪邸とは聞いてたけど、あきらの家は、ほんっとうに堅牢な豪邸だった。

コンクリート打ちっぱなしの、デザイナーズハウスって感じ?


あ。

斜め向かいの表札……「荒川」だ。


なるほど。


荒川弓子の家も、やっぱり大きいなあ。

こちらは乙女チックな白い別荘って感じ。

やー、うちもわりと区画広めの分譲地なんだけど……レベルが違うなあ。
すごいわ。


ただただ圧倒される。



とりあえず、呼び出しチャイムを押した。

名乗る前に、ガチャンと扉のロックがはずれ、あきらの声が聞こえてきた。


『いらっしゃい。解錠したから入って来て。』

「おう。」

思わず身構えてしまった。
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