彼は腐女子を選んだ
「わかった。……でも毎日は無理やで。炎天下の自転車40分は、きついからな。」

そう言ったら、あきらの顔が輝いた。

「そりゃあかんわ。熱中症になるわ。……これ、使って。」

取り出したのは、いつもあきらが使っているタクシーチケットの束だ。


「いや。さすがに、それは……。あきらのご両親に迷惑かけたくないわ。」

そう言ったら、あきらがニッと笑った。

「うん。そう言うと思って。これ、俺の通帳から引き落とされる、俺のカードで作ったタクシーチケット。俺、もうすぐ死ぬのに、貯金めっちゃあるねんか。芸能界のお仕事してたし。せやし、遠慮なく、どうぞ。」

「……ありがとう。」


さすがに、断れなかった。

むしろ、助かるし。


てか、もしかして、これ使うことで、私、毎日呼び出されるのかもしれないけどさ……はは。


まあ、いいよ。

最期までつきあうと決めたから。

とことんつきあう。

なるべくそばにいてやる。



あきらは、私が素直に受け取り、興味津々で表紙をめくっているのをうれしそうに見つめていた。


気恥ずかしいので、パンを突き出した。

「適当に買って来た。好きなパンある?」

「うーん、何でもうれしい。どれも美味しかったし。わ!こんなに!……どれも食べたいなあ……半分こ、しよ♪」

「いいけど。今、食べるのは半分だけな。残りは明日の朝にでも食べよし。……食べ過ぎや。」

そう言ったら、あきらはちょっと笑った。

「買って来たの正美ちゃんやのに。……あ、そうや。パン代……。」

「いや、たいした額じゃないから。」


慌てて、拒否したけれど、本当は……貯金に手を付けていた……。


あきらは、苦笑した。

「うん。そう言うと思ってた。……でも、正美ちゃんこそ、バイトとかしてへんのに、親御さんからのお小遣いで無理させるわけにいかんし。……母に相談したら、代金の支払いじゃなくて、親切にしてもろたお返しってゆーて受け取ってもらい、って。」

そう言って、あきらは小さなぽち袋をくれた。

「わ。かわいい。……てか、あきら、私のこと、親に言ってるの?何て?」


友達?

協力者?



あきらは、しれっと言った。

「え?普通に。カノジョって言ってるけど。」


……マジか。


「……ううう。」

頭を抱えてうずくまった私を、あきらはくすくす笑った。


「いや、笑い事じゃないし。これから、どんな顔して、お会いすればいいんだ……。」
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