彼は腐女子を選んだ
「はい。大丈夫です。ごめんなさい。杉森さん、やっぱりあきらくんに似てますね。びっくりしてしまいました。」

正直にそう言ったら、御父君は深く息をついた。

「……病院では、飄々としたお嬢さんだと安心してたけど……あきらの前では、気丈に振る舞ってくれたんやね。ありがとう。」

「よく飄々としてるって言われるので、あれが(すぅ)やと思います。……ちょっと、感傷的になってるのかな。はは……。」

あきらの御父君は、黙って頷いてくださった。



職員室の前で別れようとしたら、御父君に引き留められた。

「すみませんが、待っていてもらえませんか?長くはかかりませんので。」

「……はあ……。」

驚いたけれど、御父君の瞳も潤んでいることに気づいた。


おとなしく廊下の端に立っていたら、うちのクラスの子たちが帰って行くのが見えた。

ホームルームが終わったようだ。


慌てて、ひかりんにラインを送った。

<ごめん。待ってなくていいから、先に帰っててな。>


すぐに既読がついて、かわいらしくデフォルメしたウンチのスタンプが送られてきた。



……まあ……そういうことに、しといてやるか。


***

程なく、あきらの御父君が、担任の先生と共に職員室から出てきた。

先生は、私がいることに、あきらかに動揺していた。

「彼女は、何もかもご存知です。」

あきらの御父君が担任にそう言った。


「そう……ですか……。……その……なんだ……。……杉森を、頼む。我々、クラスのみんなの分も……堀に託して悪いが……。」

よく見れば、担任の目も赤かった。


みんなの想いを託されてしまった私は、重々しく頷いた。



「……休み明けのテストは配慮する。」

とんでもないことまで先生が言い出したので、ちょっと笑ってしまった。


「病室で勉強する予定です。が、もし、ボロボロだったら、下駄をはかせてください。」

「……そうか。まあ、堀なら、大丈夫だろう。」

何をどう評価されているのか、担任は私に一任すると、御父君に挨拶して職員室に戻った。



「これから、あれのところに、行かれますか?」

御父君に聞かれて、私は頷いた。

「はい。ホームルームも終わったみたいなので、行きます。」

「そうですか。……では、これを、渡してやってください。」
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