彼は腐女子を選んだ
同じ書架に、以前借りたことのあるジャン・ジュネの小説があった。

そして、有名なジャン・コクトー。



ジャン、ジャン、ジャン。



そう言えば、ジャン・コクトーもジャン・ジュネと同じく腐の対象だったな。



何となく、『私のジャン・コクトー』という本を手に取った。

ら、作者が、ジャン・マレー!


ほう!?

杉森くんの忘れてった本の作者だ。


これは、借りねばなるまい!




そろそろお昼休みが終わる。

慌てて、荷物を片付け、貸し出し手続きをしてもらって、教室に戻った。


***

その夜、ネットであれこれ調べてから、本を読んだ。


ジャン・マレーは有名な俳優さんで、ジャン・コクトーの愛人だった!!!!


そうか!

ジャン・コクトーの映画の常連さんじゃないか!

だから聞いたことあったのか。



いや、待て。

覚えてる。


美女と野獣の主役カップルって、結婚してたはず。



……同性の愛人の映画に出演してるのに、共演者と結婚……。


爛れてるなあ。

……。

……で?


何で、杉森くんは、『赤毛のギャバン』なんだろう。



……。

……いかん。

アレも読んでみたくなってきた。

明日、借りよう。


***

腐女子的好奇心の赴くまま、翌日の昼休みに、私は図書館へ向かった。

しかし、書架に黄色い背表紙は見当たらなかった。


貸出中ってことか。

……杉森くん、昨日の放課後か、今日の朝イチで借りに来たのかな。


うーん……。

いつ返す?と、聞けるはずもなく……。



教室の杉森くんは、いつも楽しそうにいろんなヒトとおしゃべりしてて……私は、それを遠巻きに眺めることすら、しない。

同じ空間にいながら、完全に異次元の人たちって印象だし。


まあ……2週間の返却期限が来れば戻ってくるだろう。


あきらめて、私は、杉森くんが本を返す日を待つことにした。


***

しかし、迂闊だった。

てか、杉森くんのモテ男ぶりを、私は理解してなかった。


杉森くんは3日で本を返却したのだが、……その時には、幾人もの女子が予約を入れていた!


おいおいおい。

マジか。



……なるほど。

恋する乙女たちは、惚れた男が読んだ本を、自分も読みたいものなのか。



やー、すごい世界だ。

正直なところ、その執念にどん引きだ。
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